イノダコーヒ


京都は好きな町だ

住んだことはないけど、大阪に住んでいたハタチの頃はよく遊びに行った

河原町でレコードを漁って、磔磔か拾得でライブを観て

ジャムハウスで朝まで粘って...


僕の父親は染物の職人で、京都と東京にお得意様の染物問屋があった

小学生の頃は、京都に商談で行く時一緒について行って、帰りに三十三間堂や広隆寺、龍安寺などの見学に連れて行ってもらった


午前中は堺町通りの問屋さんで商談だ

商談といっても、父と問屋のご主人は世間話ばかりでちっとも話が進んでいる様に思えない

どこそこの筍が食べ頃だとか、あの骨董屋にいい器が入っただとか

それでいて、いつの間にか話がまとまっていたりする


商談中、僕は何をするわけでもないので暇なわけだ

本など読みながら、時折耳に入ってくる会話を聞いていたりするのが常だった

大人の二人は、いつも、小一時間も経って僕が退屈しだした頃を見計らって、店の隣にある喫茶店に連れて行ってくれた

隣の喫茶店で、甘い物でも食べさせてあげようというわけだ

サンドウィッチやプリンなど、僕が好きそうなものを頼んでくれて、また大人二人は商談を始める

その喫茶店は、幼い僕でも静岡にある様な喫茶店とは雰囲気が違う事がわかった

広くて清潔な店内

白くて美しい皿

まるで高級レストランの様に感じたものだ

その後、時代は変わり、平成に入ってしばらくして父は商売をやめた

京都のお得意様の軒先にも、もう看板は下がっていない

今は昔、まだまだ日本が高度成長している頃の話だ

そして皮肉にも、高度成長に反比例して、着物は姿を消してゆくのだった

大人になって、何度となくその店に行った

幼い時に感じた「大人の世界」を今でも感じる事ができる

時々無性に懐かしく思う


京都 堺町通り三条 イノダコーヒ

幼い頃の僕に会える気がする








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